ゆっくりと、カリッサがその瞳を開く。 どくん、どくん、どくん・・・ 心臓が早鐘を打つのを感じながら、アロワードは彼女の言葉を待った。 眼帯は既に着用している。慣れた右目だけの視界の中で、カリッサと目が合った。 どくんっ・・・! (カリッサ・・・) 彼女の顔に、朱が挿すのが分かる。それは、ほんのりと、という形容を超え、真っ赤になる、と表現した方が当てはまるほどに、濃さを増していった。 「あ・・・あの・・・」 なんと言葉をかけて良いのかが分からない。 ついさっきまで、二人は絶対の絆を持っていたように思えたのに。 心細い、というには巨大すぎる、漆黒の恐怖心が、今のアロワードの精神を支配している。 不意に。 「・・・なぁ」 いつもの・・・よりも、かなり不機嫌そうな声で、カリッサが声を上げた。 ズキッ・・・!! その一声で、アロワードの恐怖心は、まさに彼の存在そのものを飲み込むかのように膨れ上がった。胸に、耐え切れないほどの痛みを感じる。 (やっぱり・・・な・・・) 馬鹿げた夢だったのだろう。 人に暗示をかけておきながら、その暗示によってもたらされた感情が、本当の感情になってくれないか、などというのは・・・ 半ば・・・否、完全にアロワードは諦めた。 (総てを受け入れよう・・・彼女の怒りを・・・) そう、決意して、アロワードは答えた。 「・・・はい」 その瞬間、カリッサの眉がピクン、と跳ね上がった。表情に怒気が広がる。 ズキン・・・!! 締め付けるような、刺すような、痛みがアロワードの胸を襲い続ける。 「なんでだよ・・・!」 怒気を隠そうともしないままカリッサが怒鳴る。だが、その後に続く言葉は、アロワードの予想を裏切っていた。 「なんで、そんな喋り方なんだよっ! わたし達は・・・」 そういって、そのまま口を噤んでしまう。 ・・・いや、かすかな声で、彼女は続けた。 「わたし達は・・・その・・・恋人同士になったんじゃないのかよ・・・」 さっきと同じように、顔を真っ赤に染めて。 だが、染める理由が、アロワードの考えていたこととは逆の方向を向いていた。 「カリッサ・・・?」 呆然と、アロワードが呟く。 (まさか・・・まさか・・・?) 胸が痛い。だが、この痛みは、先ほどまでの痛みとは違うようだ。 どくん、どくん、どくん・・・ もう一度、鼓動が早くなり始める。 こんな、夢のような話があってもいいのだろうか? まだ、アロワードは、この展開が信じられずにいた。 「わたしは・・・その・・・どう、呼んだらいいかを聞きたくて・・・」 もごもごと、カリッサは呟き続ける。 「怒って・・・ないんで・・・ないのかい?」 危うく、また他人行儀な口調で話しそうになり、アロワードは言葉を選びながら、カリッサに訊ねる。 「怒ってるさっ! なんで、一回、記憶を消したりしたんだ、とか・・・その、色々・・・」 激しく吹き出しそうになったカリッサの勢いは、だが、アロワードの顔を見て、視線が合った途端にしぼんでいく。 「でも・・・いいよ、もう。だって・・・」 それは、瞳の暗示に似た魔力。 だけど、確実に違うもの。 アロワードは、自分が歓喜している事を知った。 「だって・・・わたしは、やっぱりあんたに惚れてたんだ・・・それが分かったから」 その言葉に、アロワードは、力を感じた。 彼も、その魔力に捕らわれたのだ。 (父上・・・見つけました・・・) 魔力の名は、恋。 (僕も、ようやく見つけましたよ・・・父上!) アロワードは、思わず、カリッサを抱きしめていた。 「あぁ・・・カリッサ・・・」 吐息とも取れるほどの声で、愛しい女性の名を呼ぶ。 「ちょ・・・ア、アロワード・・・」 初めて、カリッサが彼を名前で呼んだ。 「その・・・ちょっと、苦しい・・・」 だが、言葉とは裏腹に、その声には、恥じらいを含んだ嬉しさが溢れていた。 「だめだ、カリッサ、抑えられない」 「え、ちょっと・・・!?」 驚くカリッサの唇を、アロワードの唇がふさいだ。 さっきまで、抱き合い、重なり合っていたベッドへ。 二人はそのまま、もう一度倒れこんだ。 「んっ、んっ、んふっ・・・」 じゅるっくちゅちゅ・・・ 「んふぁ、んん・・・んっ・・・」 長いキスだ。 カリッサの記憶が総てよみがえった今。 その彼女の記憶の中にもない長さで、アロワードはカリッサとのキスを求めてきている。 (・・・不思議だなぁ・・・) キスをすると、どうしてこんなに緊張がほぐれていくのだろう。 アロワードのむさぼる様なキスに、全身が蕩かされていく。 舌と舌が絡み合い、二人の唾液が混ざり合う。まるで、お互いを溶かしあい、一つの存在にするかのように。 「んっ、んっ・・・ふぁ・・・んく・・・」 ちゅっじゅる・・・ちゅじゅるるっ・・・ アロワードが、カリッサの舌を吸っている。彼女の唾液を総て搾り出すかのように荒々しく、だけど、優しく。 キスをしている口元よりも、身体が熱い。 胸や局部を刺激されるのとは、違う快感。 局地的な電撃ではなく、まるで、全身を優しく舐め上げられているような感覚。 だから、全身から力が抜けていく。 満遍なく、蕩けてしまう。 「ふあぁぁ・・・ん・・・」 長いキスが終わったとき、カリッサの頭の中はもう、真っ白になっていた。 もう、忘れる心配はない。 ずっと、アロワードの傍にいることが出来る。 その二つの安心感が、彼女の感度をいつもよりも高めているようだった。 ぼんやりと目を開いたカリッサの視界に、アロワードの口もとから伸びる、光る糸が映る。 その糸は、カリッサ自身の口もとに伸びていて、ちょうど中間の辺りに、透明な結晶のようなものがぽつんと出来ていた。 (あ、綺麗・・・) 蕩けた心で、その結晶を見つめると、やがてその重みで糸が少しづつ彼女のおなかへと降りていくのがわかった。それにつれて、結晶のように見えたものが、雫の形を帯びてくる。 ぴと・・・ 熱くなった身体に、雫が落ちる。 「あん、つめた・・・」 思わず、いつもより少し高めの声が漏れる。 それを聞いて、アロワードがくすくすと笑う。 「な、なに・・・?」 「いや、可愛くて、ね」 「うぅ・・・」 どうやら、暗示が解けても、彼の言葉には抵抗出来そうになかった。 恥ずかしいのか、嬉しいのか、自分でもよく分からない感情が持ち上がって、くすぐったい気分になる。 「可愛く、なんかないよ」 自然、なんとなく反抗する言葉が出てきてしまう。 「いいや、可愛いよ。僕が好きになった娘だから、ね」 今度は、なにも言い返せない。 カリッサは、頬を染めて、ふい、と横を向いて誤魔化した。 と、それを狙っていたかのように、アロワードの口が耳元に近づく。 「カリッサ・・・」 「ひゃうっ・・・!」 熱い吐息とともに名前を呼ばれ、ゾクゾク、と背筋を快感が走る。 「ほら、可愛い・・・」 耳元で、くすくすと笑う。 恥ずかしいのと、寒気にも似た快感に、カリッサは身を捩るが、アロワードはまるでカリッサの動きを見切っているかのように付いてくる。 「あぁん・・・!」 堪えきれずに、喘いでしまう。 「もっと、聞かせて・・・ね?」 そう言うと、最後にもう一つ、はぁ、と熱い吐息をかけ、アロワードの頭が離れていく。 耳元から、首筋を彼の舌が、つーっと下ってゆく。 そして。 ちゅるるるっ・・・! 「んふぁ!? あっふぁっ・・・うんっ!?」 舌の熱が冷めてきた頃、アロワードは乳首を口に含んだ。 冷から暖への、突然の温度の変化と、その中で踊るまだ冷たい舌。 二つの温度差の愛撫が、カリッサを狂わせる。 「あっ! うん、もぅっ・・・!? あはぁ、んぅっ!!」 舌の熱が戻る頃には、彼の指がもう片方の乳首をつまんで転がし始める。 次から次に繰り出される新たな快感に、どちらにも意識を向けることが出来ず、結果、総ての快感を抵抗無しに受け入れなくてはいけなくなってしまう。 アロワードは、カリッサの意識が集中してきたかと思うと、脇に手を伸ばしたり、背中をくすぐったりしてくる。 「はぁ、はぁ、はぁぁぁっ!? んむぅっ!? あぁん、どこ、いやぁぁん、あふぁぁ・・・」 どこからアロワードの手が伸びてくるのかがわからない。 そのうちに、カリッサは、全身を同時に総て、愛撫されているような錯覚に陥ってゆく。 「あぁ、んんっ、もう、すごっ、あぁっ!? っんんんっ!! あふ、あぁぁんっ、あんあんぅ・・・!!」 快感に、文字どおり翻弄されてしまい、喘ぐしか出来なくなる。 そして。 「・・・っ!? あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 意識を全身に拡散させきってしまったとき、アロワードは、ついにそこに触れたのだ。 彼女の花芯はすでに皮膜を抜け出し、艶やかな顔を覗かせていた。 その、カリッサの花芯にアロワードが触れたとき。 「あぁぁぁっ!? も、もう、もぉいっ、くぅぅ!! あぁ、いっちゃ・・・あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 彼女は、彼女のままで、初めて達した。 |