魔眼 第三十九話


「ちっ・・・」
 リュウイは、光の街道の一角で舌打ちをした。
「どうなってんだ・・・? なんで、反応が・・・!?」
 近づけば近づくほど、場所が特定できなくなってきた。
 反応が鈍っているのではない、範囲が広がっているような感覚なのだ。
「くそ・・・こりゃ自分の感覚だけじゃダメだな。魔探石でもあれば・・・」
 そう言うと、ふぅ、と、諦めたように息を吐く。
「いや、無意味か。俺自身が、一番反応しちまうもんな」
 自嘲気味に呟く。
 とにかく、一人で動くには限界があるようだった。
「夜中に起こすと、ガルバスがまた騒ぎそうで嫌なんだがなぁ・・・」
 ぼやきながら、それでも、今夜の捜索を打ち切る事にした。
 ヴィクト達と共に行動するのであれば、自分一人の時とは勝手が違う。
 彼らは(異種族もいたりはするが)『人間』だ。
 そして、恐らく、この反応は吸血鬼のものだろう。
 それも、ノーライフキングに近い血統の、強力な反応だ。
 人間を連れて、夜、吸血鬼と対峙するという事は、そのまま、彼らを危険に晒す度合いが急激に増す事になる。
 ぎりっ、と、音を立ててリュウイの奥歯が噛み合わされる。
 反応が消えたわけではないのだ。
 今このとき、誰かが、犠牲になっているのかもしれない・・・その想いが、奥歯を噛む力をいっそう強くさせる。
「くそ・・・なんなんだ、この反応はっ!!」
 苛立たしげにもう一度繰り返し・・・肩を落とすと、リュウイは街道で一番高そうな宿屋を探し始めた。
 今のガルバスがあのパーティーに居る限り、高い方から訪ねて行ったほうが、早く彼らを見つけられるのは間違いのないことだった。


 アロワードは、夜露に湿った土の上に座り込んで、自らが積み上げた石積みを、ぼんやりと見つめていた。
 街道から、トーランガ側に少し外れた森の中。
 アザリーの記憶から、自分に関するものを全て消した後、彼はあてもなく外に出て・・・気が付くと、ここに来ていた。
 カリッサの墓。
 今は、何も考えたくはなかった。
 ただ、こうして、カリッサの墓を、見つめていたかった。
 夜が明けたら、トーランガに登るつもりでいる。
 そして、忌まわしきこの力を、捨てようと思っている。
 それなのに、彼の脳裏では、アザリーの言葉がリフレインしていた。
『あの人・・・カリッサさんを忘れろって言ってるんじゃないの。むしろ逆よ。彼女を忘れないために。彼女を守れなかったことを、忘れないために』
 アザリーは、力を捨てるなと、アロワードに言った。
 カリッサを忘れる事は、強制されてもできそうにない。
 それでも、力を捨ててはいけないのだろうか?
 何も考えたくはないのに、グルグルとその事が頭を回り続けている。
「ねぇ、カリッサ・・・君なら、どう答えてくれる・・・?」
 ぼそりと、アロワードは呟いた。
 月に照らされた石積みから、答えは返ってこない・・・


 立て、という男の言葉に、逆らうはずもなくフランは立ち上がった。
 体中がダルく、足は完全に笑っている。
 しかし、立たなくてはいけなかった。
 下腹でうねりを伴っている、この熱い感覚を、男にどうにかしてもらいたかった。
(だめ・・・狂いそう・・・)
 口元から、涎が顎に伝わっているのが分かる。しかし、そんな事を気に止めていられるほどの余裕が、今のフランにはなかった。
 フラフラと、熱病に浮かされている様に彼女の身体がぐらつく。
 いや・・・
 熱病を患っているのは確かだ。
 精神をも蝕む、淫らな熱病に。
「くくっ・・・」
 楽しそうに、男が嘲う。
「いやいや・・・うん、いいな、お前。
 その貌もいいぞ・・・
 次にどう変わるのか・・・楽しみだ・・・くくっ・・・」

 本当に楽しそうに、男が呟く。
 今のフランには、その意味を図る事さえ出来なかった。
「あぁ・・・早く・・・お願い・・・」
 身体の中にある熱いうねりが、少しづつその勢いを衰えさせていくのを感じる。
 それが、たまらなく辛い。
 自然に消えていくのが耐えられない。
 爆発させたいのだ。
「よしよし・・・可愛い奴隷の頼みだ・・・」
 含んだ物言いで、男が手を伸ばしてくる。
 その手が、自分にゆっくり近づいてくるのが、もどかしい。
(早く・・・早く・・・くるっ!)
 待ちわびた瞬間を、歓喜の表情で迎え入れる。
 手が、熱く潤んだ秘苑に伸びていき・・・つぷり、と、沈んだ。
「あふっ・・・・はぁぁぁっ!!!」
 そこから、脳天に突き抜ける快感が疾る。
 静まろうとしていたうねりが、再び荒れ狂い始める。
 少しだけ・・・ほんの少しだけ、「考える」事が出来始めていたフランの理性が、また消し飛んだ。

「うん・・・いい感じだな・・・」
 指先から伝わる、ぬめり、そして温度。
 男は、それを確かめてから、また美貌を悪意に歪ませる。
 これから起こる事が楽しみで仕方がない。
 いつだって、その瞬間が愉しみで「狩り」をしているのだ。
 後ろに控えている魔術師も、良かった。
 そして、いま自分の指に翻弄されているこの少女は、どうなるのだろうか。
 ゾクゾクする。
 早く見てみたい。
「よし・・・」
 急く気持ちを抑えながら、指を引き抜く。
「あ・・・あ・・・」
 少女の、名残惜しそうな声が、男をなおも楽しくさせる。
「今から、もっと良くしてやる・・・くくくっ・・・」
「は、はい・・・お願い・・・」
 縋る様な瞳で見つめてくる少女の顔が、たまらない。
 そして、この表情が、この後、劇的に変化するであろう事が、楽しみで仕方がなかった。
「さぁ、行くぞ・・・」
 立ったまま、少女の腰を掴んで引き寄せる。
 それだけで、
「うぁっ・・・」
 びくっ、と、少女の身体が震えた。
 男のそれは、期待と、先ほどの少女の口淫でいきり立っている。
「入るところをよく見ていろ」
「は、はい・・・」
 ほんの数十分前、恐怖の瞳でその様子を見ていた少女は、いま、期待に満ちた瞳でそれを見つめる。
 先端をあてがい・・・そして、ずぶり、と沈める。
「くぅぅっ!」
 その瞬間に、少女の首がのけぞる。
「くくく・・・うん、いいぞ・・・熱くて、いい感じでヌルついている。
 さっきは全然ダメだったのにな。
 うん、まだ狭い・・・これはいいぞ」

 言いながら、奥までぐいぐいと押し付ける。
「くっ・・・っはぁっ!」
 まだ痛みも当然残っているだろう。
 だがそれでも、少女は恍惚としていた。
「ふん・・・こいつはとんだ淫乱だな・・・
 さっきまで処女だったくせに、涎垂らしてよがってやがる」

「あぁ、あぁぁぁ・・・」
 魔眼の事は棚に上げて、嘲る。
(ふん・・・ただイカせるだけってのはつまらんな)
 だが、少女の身体が思った以上に良い味だった事で、満足する事にした。
 どうせなら、盛大に感じさせてやろう。
 その方が、後の楽しみが増すというものだ・・・
 男は、改めてニヤリと笑うと、勢いよく抽送を開始した。
「ひぁっ! あぁっ! ひ、あああ、ああぁ、ぁ、ぁぁ、ぁっ!!」
 突き込む度、引き抜く度、少女が叫ぶ。
 さっきは擦れて痛いだけだった膣の中が、にゅるにゅると男に絡みつき、離さぬ様に縮まる。
「気持ちいいのか?」
 悪意に満ちた含みを湛え、聞く。
 この過程が大事なのだ。
「はい、きもっ、あぁぁ、きもち、いいいぃいいぃ! ですっ! ふうぅぅっ!!!」
「そうか・・・気持ちいいか・・・くくくっ・・・
 ならば、もっとして欲しいか?」

 重ねて、聞く。
「あぁ、はい、もっと、もっとぉっ!!」
(くははっ! 言いやがった!)
 少女が男の玩具に堕ちたことを、改めて確認する。
(よし・・・イカせてやるか・・・)
 内心の暗い喜びを隠しもせず、男はギラギラと赤い瞳を光らせ、口元を歪ませた。
 これからが一番楽しいのだ。
「それ、イケ!」
 ばちっ!と、肉どおしがぶつかる音を立てて、男は少女の最奥まで貫いた。
「ひぐっ・・・・・・・・・・・!!」
 少女は、声も上げられず、男にしがみついて、がくがくと痙攣をした。
 男にとってのゲームが、今やっと、本当に始まったのだ・・・

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