辛口のワインと甘口のキス。 酔っぱらったように私は、ソファに座り込んだ。 ふと気付くと、シャワーの音が聞こえる。 そういえば、俺も汗を流してくるよ、と言い残して、彼がバスルームへ行ったんだっけ。 つい先程までの感覚をひとり思い出しては、快感に酔いしれる。 自分の指を唇にあて、なぞり、口の中へ入れる。 指を舐め、吸い、舌の感覚を反芻する。 「キスだけでイクこともあるんだよ」 そんな風に彼が言っていたのを思い出す。 まさか、と思っていたけれど、あり得るかも、と思うようになった。 水の音が止まった。 彼が、戻ってくる。 そう思っただけで、身体の奥がきゅうっと音を立てて反応した。 ソファに座り直し、少しぬるくなったワインを口に含む。 「また呑んでるし(笑)」戻ってきた彼が笑う。 「だって、二本目まだ開けたばっかりだもん」 だな、と笑いながらマルボロに火を点ける。 煙草を吸うときは、少し寂しい。 だって、離れて座るから。 煙がかからないように、という彼の思い遣りなのだろうが、 つい今さっきまでの抱擁は何だったの?というくらい、そっけない。 そんなに不機嫌な顔をしていたのだろうか、私に向かって、 「煙い?」と尋ねる。 そうじゃないんだけど。 「うん、ちょっと」と答えてみる。 苦笑いをしながら、煙草を消し、ソファの傍に来た。 私の手を取り、立ち上がらせると、額にキスをする。 腰に手を回して引き寄せると、痛いくらいに抱きしめてくれる。 心臓の鼓動が恥ずかしいほど大きくなる。 彼にも伝わってしまってるだろうか。 耳元に吐息がかかる。 「下着、着けてないんだね」 また、かあっと身体が上気する。 バカだ。私。気付かれるに決まってるのに。 シャワーを浴びた後は、身体を楽にさせたくて、パンティは穿いたけれど、ブラは着けずにキャミソール型のワンピース一枚だけを着た。 ワンピース自体に薄いパッドが付いているので、外からは判らない。 でも、これだけ密着すれば、まして背中に手を回せばブラを着けているかいないかなんて、すぐに判るに決まってる。 鼓動がますます大きくなる。 「準備してくれてたの?」 そんないじわる、言わないで。 「そういうわけじゃ・・・」 今度は指ではなく、唇で言葉を遮る。 「・・・嬉しいよ」 もう一度、唇を重ねる。 濃厚で長いキス。頭の芯がぼうっとしてくる。 彼の唇が離れても、彼に支えられていないと立っていられない。 軽く抱きしめた後に、手を引いて、ベッドの傍へ行く。 ベッドに私を座らせると、脚を支え、頭に手を添えて横になるように促す。 服を着たまま横たわった私は、緊張感がピークに達していた。 自分の心臓の音がうるさい。 横になった私の髪へ、彼の指が伸びてくる。 今度は自分から目を閉じた。 視覚という、外部情報を得る恐らく最大の感覚器を遮断することで、その他の器官が驚くほど敏感になるのを、私は既に知っていた。 キスをしてくれるときと同じように、髪から頬へ、唇へと指の愛撫は続く。 違うのは、その指が唇を離れ、首筋へ、鎖骨へ、肩へと行動範囲を広げていくことだ。 そして、服の上から身体のラインを辿っていく。 薄い布越しに感じる彼の指は、気持ちいいけどくすぐったい。 それに。 布越しは、じれったい。 指が近付いてくる温度を感じたり、爪の先だけで触れるようなあの感覚が好きなのに、 いくら薄いとは言っても、布があると邪魔だ。 だけど、どうしよう。 脱いでしまいたいけれど、自分から脱ぐのもあんまりだし。 脱がしてくれないかな・・・。 彼の唇が私の唇に触れたチャンスに首に抱きつき、 「お願い。・・・脱がせて。」と訴えた。 さっきまでと比べて、随分大胆になっている自分に驚いた。 「お姫様のご命令とあらば」笑いながら、答える。 後ろがファスナーになっているワンピースを着ていた。 脱がしてもらうためには、彼に背を向けなければならない。 促されてうつ伏せになった私の、背中のファスナーをゆっくり下ろしていく。 お尻の上まであるファスナーが下ろされたのを感じて、肩紐から手を抜こうと、少し身体を持ち上げると、不意に両手を彼に捕らえられた。 私の両手に彼の両手をそれぞれ重ね、指を絡める。 首筋や肩口に軽いキスを浴びせながら、手を私の頭の上まで持ち上げる。 頭の上で両手を重ねるような形になり、その上から彼は長い指を絡めた。 「ゆりの手って、小さいよな」 「身体がでかい割には、って言いたいんでしょ?」 「そうじゃなくてさ。俺の片手で掴んでしまえるよ」 「そうね。でも私が小さいって言うより、あなたの指が長いから、できるんじゃない?」 彼が何をしようとしてるのか、私には見当もつかず、冗談めかした会話を続けた。 「そう。そしたら、こんなことも出来る」 開いたファスナーの間から、背中にすすっと指を這わせる。 いきなりの刺激に思わず仰け反る。 ・・・その時に気付いた。 私は、両手を拘束されて無防備な背中を彼に向けているのだということに。 彼は左手で私の両手をロックしたまま、右手の指を背中に、脇に滑らせる。 開いたファスナーの間から手を差し入れ、うつ伏せになって潰れた乳房の膨らみにも。 手を拘束されているという背徳感と、先が読めない右手の動きに、身体の奥から熱が湧き上がってくるのを感じた。 背中にじっとりと汗を掻き出す。 さっきシャワーを浴びたばかりなのに。 実のところ、彼はそんなに強く手を抑えているわけじゃない。 本気で外そうと思えば外せる強さだ。 だけど。 私が、こうされることで、昂ぶることを知っているようだ。 動けないような状態を作ることで、私の中の熱が高まることを。 剥き出しになった背中に飽きた彼の指は、今度はワンピースの裾へ向かう。 裾をつまみ、少しずつ捲り上げる。 簡単に露わになった両腿の膝の裏辺りから、爪の先だけで触れるように、ゆっくりと、そして時々早く、指を這わせる。 脚の後ろ側からお尻を伝わり背中まで、痺れが走る。 吐息が漏れる。 枕に顔を押し付けて、快感を貪る私の、背中に、不意に彼は舌を這わせた。 電流のような刺激が走り、私は大きく仰け反った。 その反動で両手の拘束が解かれ、うつ伏せのまま放心してしまった。 彼は私を抱き起こすと、ベッドに腰掛けさせ、ワンピースの肩紐をずらす。 彼の目の前で露わになった乳房は、どくどくと打つ脈に合わせて動いている。 「大丈夫?」と声を掛けながら、私を立たせると、ワンピースとパンティを一気に剥ぎ取った。 あっというまもなく。 恥ずかしがる暇もなく、完全に素の私がいた。 慌てて前を隠そうとすると、両手を掴まれてベッドに押し倒される。 「脱がせてって言ったのは、ゆりだろ」 確かに、そうだけど。 「俺に見せて。ゆりを、全部」 唇から、首筋へ、鎖骨へ、肩へ、二つの膨らみの谷間へ、彼の舌が動き、ぞくぞくするような快感が走る。 そして、今度は全く何も纏わない状態で、また拘束状態に置かれている自分の姿を想像して 私の中から熱がほとばしるのを感じていた。 |